査定車両:トヨタ ノア
2011年秋
会社の電話が鳴り
依頼主「使わなくなった車を買い取ってほしいのですが」
私「お任せ下さい。それでは査定に伺いますね」と早速出向く。
依頼主宅へ到着すると玄関先に忌中の札・・・
だれかが亡くなったのか・・・と笑顔を消す。
呼び鈴を鳴らし依頼主に挨拶。玄関にはお葬式で使用した残りであろう会葬御礼の紙袋がいくつも並んでいる。
依頼主は女性、おそらく4~5歳くらいのお嬢さんも出てきて無邪気におもちゃを見せてくる。
依頼主「先日主人が他界しまして、ノアは私には大きいので手放そうと」
私「お悔み申し上げます。さっそく査定を行いますのでよろしくお願いします。」
いつもの和ませトークや地域の話題なんかとても話せない、なんてやりづらいんだ。
淡々とことを進め査定額を案内、「ぜひ弊社に売ってください」などとは言えない空気の中その場を後にしようとすると
依頼主「ではそれでお願いします。いつ引き取ってもらえますか?」
私「よろしいんですか?引き取りは明日以降可能です」
依頼主「では明日でお願いします。」
意外な買取依頼に戸惑いつつ必要書類を説明、翌日には車両の引き取りが完了した。
衝撃の光景を見つけたのは引き取り翌日の朝だった。
会社敷地内にあったノアの側面、運転席側のスライドドアについたホコリのなかに
「お と う さ ん の く る ま」
と指でなぞった跡を見つけた。黒い車体に浮かぶ拙いひらがなはお嬢さんの指によるものだとすぐにわかった。
その瞬間一気に涙があふれた。声を出して泣いてしまった。
同じ年頃の子を持つ親としてなんとも言えない光景であった・・・
しばらくして落ち着いた後、この文字と他数点の画像をカメラで撮影。
簡単な手紙添えて郵送したところ、後日お手紙をいただき
「この度はありがとうございました。お手紙と写真を見ていままで我慢していた涙があふれてしまいました。娘に写真を見せて聞いてみたらやはりノアが引き取られる前に書いたと言っていました。このような対応をしていただき本当に感謝しています。」
他にも心境の変化などたくさんの文章が書かれていたがプライベートな内容は割愛。
手紙の最後に
「もっと運転がうまくなったらまたノアを買って娘と出掛けたいと思います。その時はぜひよろしくお願いします」
と記されており、私はこの親子の今後の幸せを心から願った。
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